「ふじさと元気塾」理事長の藤原弘章さん。ふじさと元気塾の活動基地「ねまるベース」にて。「ねまる」とは秋田弁で「座る」「くつろぐ」という意味。
秋田県の最北端、青森県との境に連なる白神山麓のふもとにある秋田県藤里町。人口2800人の町に、県内外をはじめ海外からもファンが訪れ、そこで生まれた交流が関係人口に繋がっています。その仕掛け人となった特定非営利活動法人「ふじさと元気塾」理事長の藤原弘章(ふじわら・ひろあき)さん(68)に、関係人口創出までの道のりとその秘訣を聞きました。
南米エクアドルでの教員生活が視野を広げてくれた
藤原さんは、地元藤里町を出てから神奈川県藤沢市で中学の英語の教師を30年勤めました。多忙を極め、毎日ほとんど家と学校の往復でしたが、エクアドルの日本人学校に英語教師として派遣され、子供たちと共に3年を過ごしたことで、「生き方が変わった」と言います。
「多様性を理解するようになりましたね。日本にいた頃は、無難に過ごせたらいいな、くらいに思っていたのですが、一人一人に個性があるんだ、尊重しようと思うようになりました」。その思いは、今の藤原さんの活動の中にも生きており、NPOのスタッフ一人一人が働きやすい環境を作るという方針の土台にもなりました。
また、人脈づくりや人と繋がることの大事さを痛感したことが、その後の藤原さんの「生き方」のベースとなり、関係人口を生み出す原動力になっていきます。
地元に帰って見つけた、住民という宝。「今あるもの」で町を元気に
その後両親の介護のため、52歳で教職を退き藤里町に帰った藤原さんは、人口が減り元気がなくなった町の様子に直面します。なんとか地元を元気にしたいと、仲間3人で「ふじさと元気塾」を創設しました。環境保全活動や、県から委託を受けた買い物弱者支援など、さまざまな活動を行った中でも、最も地元の人を元気づけ、「地域を変えた」活動が、藤里町オリジナルの「お宝マップ」でした。
※東北電力が取り組む「地域づくり支援制度」の協力を得て作られた「お宝マップ」。ビジネスに発展させられそうな人的資源を掘り起こしました。
「お宝マップ」とは、町民一人一人にヒアリングを行い、どこにどんな“得意分野を持つ人”が住んでいるのかを書き出して地図にしたもの。藤原さんたちの活動に興味を持っていた、一人の大学生が仲間を募り、実際に町を歩いて聞き書きしました。“得意”の種類は千差万別。料理だったり、ちょっとしたリフォームだったり、釣りだったりと、決して誰にもできない特殊な能力だけを指すのではなく、普段やっていることがほとんど。しかし藤原さんは言います。
「こんなにみんな色々な能力があるんだ、その力を何か持続できるビジネスに繋げられないかと思いました」。
※農泊について学ぶお母さんたち。言葉にしたことが「形」になっていきます。
今では、九州や静岡などの遠方から、地元のお母さんたちの手料理や山歩きの愉しみを求めて、リピーターが毎年訪れるまでになった「藤里町粕毛(かすげ)地区 花の民泊通り」(農家民宿事業)はこうして誕生しました。研修を通じてノウハウを習得し、6軒で立ち上げられた農家民宿は、年間およそ700人を集客するまでに成長していきました。住民の意識変化は手に取るように分かったと藤原さんは言います。その後農家民宿は、事業に着目した大手航空企業と繋がり、ワーキングホリデイや国際交流にも一役買うこととなりました。そこで関わった人が関係人口として地域に継続的な関わりを持っています。
※農家のお母さんとなつはぜジャムづくりを体験中
「粕毛地区は確かに変わりました。お客様がここに来る一番の魅力は、地元の旨いものや自然を求めて、ということの他に、お母さんたちの笑顔だと思っています。そして、自分たちから宣伝しなくても、活動を見つけてくれて、繋いでくれる人がいる。その人たちが自分たちを評価してくれる。人との繋がりの大事さを今もって痛感しています」。
どこからどう繋がるかわからない、不思議な縁に助けられている
※新たに設置された展望台にて。町の全景から白神山地までを一望できます。
「人との繋がりが大事」と言う藤原さん、地元に戻って引きこもっていた青年に、“このままにしておけなくて”、声をかけたり、コミュニケーションの苦手な若者にパソコンでの作業を頼んだりするうち、県内外からの関係人口は少しずつ増えていきました。移住定住支援や空き家バンクなどなど、様々な事業が舞い込むなか、“多様性を重視し働きやすい環境づくり”で、ひきこもりが縁で繋がった青年も、今では「サクラマス養殖事業」に関わり、ふじさと元気塾に欠かせない一員となっています。
「一見、関係性のない事業をいろいろ頼まれてやっていると、実績ができていきます。まず知ってもらうことが大事。そして、まとめ役と、企画申請、事務。この三役が機能していることで地域の活性化は成り立っていきます」。
高齢化が大きな壁となっている地域にとって、関係人口として外からの意見は貴重だし、地域外の方々にはやりがいを感じてほしいです。
まずは、「人と人がつながること」に熱を込める藤原さんですが、今最も懸念しているのはNPO自体や町民の高齢化です。人と人のつながりが高齢化によって希薄になってしまっている事実は決して楽観できないと言います。
そんなふじさと元気塾に関わる今後の関係人口に期待することを聞いてみました。
※宿泊体験でのひとこま
「やりがいを感じてほしいんですよ。住民と触れ合って、まず藤里町を知ってほしい。ちょうど去年ワーキングホリデイで来て、除雪体験をした大学生がまた来てくれるのですが、いろいろ体験する中で、来年はどうすればいいのか、関わってみて感じたことを意見してもらいたい。中にいる人間だけでは考えが枯渇してしまうし、外からの意見は貴重です」。
ピザ釜やマウンテンバイクを常備した“貸し田舎”「南白神ベース」が藤里町を体感する新たな拠点に
※マウンテンバイクのコースもまだまだ開拓する予定。アウトドア好きを魅了すること間違いなしです。
民泊のある粕毛地区に、大きな空き家を一棟丸ごと改修工事して開設した、「南白神ベース」。藤里町の田園風景を眺めながら、気兼ねなく田舎暮らしを満喫できます。南白神ベースからマウンテンバイクで行ける展望台からは藤里町を一望できるほか、白神山地を仰ぎ見ることも。ホテルや旅館と異なり、田舎の「家」に泊りながら、ぜひ住民たちと触れ合い、町を体感してほしいと藤原さんは言います。
※「田舎、貸します」をキャッチコピーに、空き家を改築してオープンした「南白神ベース」。すぐ目の前には広々とした田んぼ。バーベキューを楽しめる駐車場もあります。
「自分たちがリタイアできるくらい、地域を元気にするんだという同じ志を持つ人を育てたいですね。最近、移住してきた人たちがゲストハウスを作ったんですよ。お母さんたちが協力してイベントを手伝ったりしています。そんな新しい動きも出てきているし、外から来た人が孤立せずにいろいろやれる環境がここには整っています」と藤原さん。
農家民宿や南白神ベースを拠点に、まずは藤里町を体感してみてください。人と繋がり、個性を大事にできる環境で、アイデアを形にしてみませんか。
この場所に関わって様々な体験をし、コミュニケーションをする中で、自らのアイデアが採用されて、町がいきいきと動き出すのを目の当たりにできるかもしれません。
※この笑顔に惹きつけられて、“藤里をふるさとと想う人”が増えていきます。
関わり方
連絡先
・特定非営利活動法人ふじさと元気塾
〒018-3201 秋田県山本郡藤里町藤琴字藤琴52「ねまるベース」
TEL・FAX:0185-74-6102 E-Mail info@fujisato.info
この記事に関するお問い合わせ
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