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かつて銀山で栄えた院内地区を舞台に開催された世代と地域を超えた交流イベントの様子(2023年7月22日撮影。いんない未来塾提供)

 かつて東洋一と呼ばれた大銀山で栄えた、秋田県湯沢市院内(いんない)地区。
 山形県境に位置するこの地区は、現在の人口が約1,300人と最盛期の10分の1まで減少しています。ここで、「そこに暮らす人々が、30年後も幸せに暮らしていけること」を目的に多様な活動を展開する地域団体「いんない未来塾」が、地域内外から注目を集めています。
 この団体は、院内地区と仙台を行き来する「関係人口」の青年と、地域の若者たちとの交流がきっかけで、2019年に設立されました。人口減少が進む状況でも『幸福』を感じるとはどういうことなのか、具体的にどのような活動をしているのかうかがいました。


東洋一の大銀山、カルデラのまち院内。400年の繁栄を支えた「関係人口」の存在

 院内地区のシンボルである院内銀山は1606年(慶長11年)、今から400年以上前に発見されました。最盛期の産銀量は東洋一とも呼ばれ、当時の久保田(秋田)藩直営の銀山として、藩の経済を支える重要な拠点だったといいます。この院内銀山には当時鉱山事業が盛んだった中国地方をはじめとし、全国から多様な人材が流入しました。彼らは石見などの銀山で培った採掘技術の工夫を院内銀山に伝えるなど、発展に多大な貢献をしました。明治時代は、人口が12千人を超えたといいます。産業発展のためにドイツ人技師を招聘(しょうへい)するなど、海外人材の活用も積極的に行われました。
 院内を訪れると、ごく低い山にひっそりと包まれたような独特な雰囲気があります。この独特な地形は「カルデラ」といって、噴火によってできた巨大な凹地(くぼち)のことを指します。まさに院内はカルデラの中に存在するまちと言えます。
 カルデラの中であるがゆえ豊富な資源に恵まれ、銀だけではなく、院内石と呼ばれる石材も多く産出されたことでも知られています。しかし、昭和初期〜中期にかけて銀山が閉山し、採石業も下火になると、地域の人口は外部にどんどん流出していきました。今現在の人口は最盛期の10分の1程度になっています。


廃校を活用したマルシェイベントに除雪。多岐に渡る、いんない未来塾の活動

 このように、県内でも最も人口減少が進んだ地域の一つである院内地区ですが、地区内にはさまざまな地域団体が活発に活動しています。そのなかの一つが「いんない未来塾」です。この団体は地域に暮らす10代〜40代の若者や、院内地区に想いを寄せる地域外に暮らす「関係人口」ら、約30名によって組織されています。活動の中心は、世代と地域の枠を超えた交流推進です。
 交流推進の事業のなかでも象徴的なのが、明治39年に建てられた廃校と、校庭を活用したマルシェイベントです。2019年4月に開催された「いんない桜フェスタ」では、参加者が地域内外の人とともに、満開の桜と院内石の窯で焼いたおいしい「いんない石窯ピザ」や、ゆざわジオパーク認定ガイドによる街歩き、大迫力の石切り場の散策などを楽しみました。また、同年10月には「いんないオータムマルシェ」が開催され、来場者は地域内外から500人を超えました。



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明治時代の趣が残る廃校の校舎・校庭で開催するマルシェイベント。2019年から継続しています(2023年7月22日撮影。いんない未来塾提供)

 2020年以降は、新型コロナウイルスの影響でマルシェイベントの開催が見送られることもありましたが、イベントの実施が可能となった段階で、コロナ禍の地域住民を励ますために、ホタテを食すイベントなどが開催されていました。( 院内地区は「ホタテ養殖の父」と呼ばれる故・山本護太郎(やまもと・ごたろう)氏の出身地であり、ホタテ養殖が盛んな青森県平内町との交流が盛んです)

 活動はイベント開催以外にも多岐に渡ります。秋田県内でも豪雪で知られているこの地域は、冬場は高齢化による空き家の増加で、通学路が雪で狭くなるなど、交通事故の危険性が高まります。そこで同団体は、秋田県除排雪団体設立補助金を活用し、会員有志による「院内雪滅隊(いんないゆきめったい)」を設立し高齢者宅や空き家の除排雪、通学路の安全確保に取り組んでいます。



院内・湯沢に想いを持つ関係人口とともに、収穫の恵みを味わう「いんないMIRAI農園収穫祭2023」

 そのほかにも、いんない未来塾では、地区内の高齢者施設に隣接する土地を耕し、採れた野菜を無人販売所で販売する事業、「いんないMIRAI農園」を運営しています。

 7月22日に開催された「いんないMIRAI農園収穫祭2023」には、仙台や横浜から未来塾のメンバーが参加したほか、地元の高校生、湯沢市が行っている地域講座「ゆざわローカルアカデミー」の卒業生、山形芸術工科大学の大学生など、地域内外から70人以上が集まりました。参加者は、農園で収穫した野菜串や、地域のお母さんたち直伝の漬物、青森県平内産のホタテ、生ビール、かき氷などを楽しみました。


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収穫祭を楽しむ、院内児童倶楽部の子どもたちと、地元湯沢翔北高校の生徒たち(7月22日、筆者撮影)

 ゆざわローカルアカデミーのOBとして、横浜市から収穫祭に参加した40代の男性は「院内は世界で見ても面白いところです。地域の人と外の人と関わる中で、地元の魅力に気付くきっかけになって欲しいです」と、地域外の人が事業を通じて交流する意義について語りました。



先輩方が築いてきた土台に、地域の若者と関係人口が一つになってチームを立ち上げていく

 このように、いんない未来塾は4年に渡って、地域内外の多様な人材を巻き込んだ活動を展開してきていますが、立ち上げにも関係人口が関わっています。

 キーマンとなったのは当時、湯沢市の地域おこし協力隊であった畠山智行(はたけやま・ともゆき)さん(40)。父親が院内出身で、自身が信仰するキリスト教に縁が深い地域であることから院内に興味を持ち、関係人口として2年ほど関わってから移住しました。出身地仙台と、ルーツがある院内をつなぐことをライフワークとし、2018年に開催された「院内まちづくりシンポジウム」で、院内の魅力と可能性について講演しました。シンポジウムの実行委員会は、地域の若者で組織されており、その実行委員会と畠山さんがいんない未来塾の母体となりました。

 当時、事務局長を務め、今は横浜に在住しながら院内と関わりを続ける畠山さんは、院内の魅力について「仕事で全国いろんな地域を見てきましたが、こんな地域はほかにありません。異質な人材や価値観を受け入れる包容力が桁違いなんです。そういった地域の遺伝子が、院内銀山が発見されたときから脈々と受け継がれているのでしょう」と、力を込めて語ります。



人口減少が進んでも『幸福』は実現できる。そのために世代と地域の枠組みを超えて、なすべきこと

 いんない未来塾の活動は、すべて「受け継がれてきたものを引き継いでいく」というテーマに集約されています。そして、その活動が目指すゴールは地域住民の『幸福』です。



代表を務める、佐藤拓弥さん。院内の良さは「若者が否定されないこと。活動がしやすい」と太鼓判。

 「先輩方、年配の人からノウハウを引き継いでいくのが大事なんです。『幸福』ってのはつながりのなかで感じるものですから、私たちが地域のお祭りや行事、細かいところでいうと漬物の漬け方とか、そういったものをできる限り受け継ぎ、継続していくことが大事だと思います」と語るのは、いんない未来塾で代表を務める佐藤拓弥(さとう・たくや)さん(36)。活動を継続する秘訣について尋ねると、「自分達が楽しむことです。楽しくなければ続きませんし、誰もついてきません。いんない未来塾のYouTubeチャンネルも、そのようなスタンスで運営しています」と続けました。

 とはいえ、そこに住んでいる人全てが楽しみ、『幸福』を感じることができる地域を実現するのは容易ではありません。都市部と違い、院内のような地域では、人口減少に伴う地域課題は「待ったなし」の状況です。地域課題を地域内のマンパワーで解決するのは限界があります。



事務局長を務める鹿角さん。事業の事務方を一手に引き受け、地域からの信頼も厚い。

 そのような状況に対して、いんない未来塾事務局長を務め、湯沢市役所の職員として地域課題に挑む鹿角将良(かづの・まさよし)さん(46)は、「もし、外部の人が(関係人口として)関わってくれるなら、即戦力で、地域で動ける人だと心強いですね。院内はピンチも多いですが、外からの力で変わるチャンスも多い地域だと思っています。外部の力を使いながら変化していくことが、持続可能な地域づくりにつながるはずです。人を受け入れる能力には自信があります。ぜひ関わりにきてください。」と、これから地域に関わりを持つ関係人口に期待を込めました。


 いんない未来塾では院内地区に想いを持つ「関係人口」の関わりを募集しています

・地域イベントの企画・運営支援
・団体のプロモーション活動支援
・その他、地域に関わること全般
 にご興味ある方は、以下のご連絡先までお問い合わせください
いんない未来塾
メールアドレス:1606.ifc@gmail.com

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関わる場所 湯沢市
関わり方 交流する・参加する 仲間になる

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